【農業日記】美味しい品種 〜幻になった深谷ネギ〜


農園を始めて以降、自分で食べる野菜をほとんど自分で育てるようになり、野菜が美味しいのが普通になっています。
宅配セットや直売所で買えるその野菜は、色形大きさが不揃いで、農協やスーパーへ出荷するのは難しく、たまたま御縁のあった方に食べて頂いています。

よく読んでいるブログ「ほんものの食べ物日記」にこんな一節がありました。

スーパーのいわゆる「一本葱(ねぎ)」は外側の泥の付いている部分が一枚むいてあります。
これは出荷前にむくのですが、人が手作業でちまちまむくわけではなく、
外側に切れ目を入れ、エアーを吹き込んで一枚ぶっ飛ばす的な機械を使います。

「皮をむく」ためには、そもそもの葱がむきやすいことが前提になります。
ということで「一本葱」は皮がむきやすいという方向に品種改良されました。

皮がむきやすい=葱の皮が厚い=硬い ですから、
触感とか味はちょっと後回しになったのかもしれません。

わたくしが産地担当をしていたころ消費者が泥付き葱を嫌うから、むき葱を出荷してもらえないか」と産地に打診したことがありました。

葱自体がやわらかくヘロヘロしている深谷葱(ふかやねぎ)はむき葱には向きません。深谷葱は青いところも食べられるため、むき葱で葉切りにするのにも向きません。

しかし農家の反発は手間の問題ではありませんでした。

「せっかくおいしい深谷葱をつくってるのに一本葱を作れというのか。
あんなにおいしくない葱をつくってどうする。大地はおいしい野菜を扱うんじゃないのか」

↓この深谷葱ってこんな感じ。

画像の出典)大地を守る会

出典のページを見ると、お客さんのコメントが「美味しい」VS「葉が痛んでいる」と確かに賛否両論。
お店に並んでいてもこの見た目だから、知らない人はまず買わないでしょう。

私の農園で無農薬で育てている野菜、作っても売れない悲しい1年目2年目を経験しました(特にキュウリ)。3年目の去年は直売所で買ってもらえるように見た目のいい品種を栽培しましたが、自分で食べて美味しく感じないものもありました。

極論すると「食べてもらえない美味しい野菜」と「食べてもらえるけど美味しくない野菜」、農家はどちらを栽培したら良いんでしょう?

更に「美味しいけども少ししか採れない野菜」というのもあります。
いろんな選択肢の中で、美味しく見た目よく作りやすい、ちょどいい落としどころを探し中です。

そしてあらためて、美味しい野菜のことを伝え、買っていただき、食事を楽しんでもらえるように工夫をしていこうと思いました。

「固定種を中心に美味しい品種を育てます。
 5月下旬頃、野菜セット再開!
 お試しもOKです。」
from ユニティ自然農園

以下、引用先の全文です。

出典)ほんものの食べ物日記

スーパーの葱から考える種の多様性のこと

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鳥取県の特産品に「白葱」というながーくてしろーい葱があります。

これは砂地で生育するまっしろな太い葱なのですが、
鳥取砂丘で栽培されているわけではなく主に鳥取県西部が産地です。

わたくしの父は境港の出身でまさに白葱産地の生まれだったため、
白葱の焼いたのとかが時折食卓に出ることがありましたが
わたくしはその葱臭さ及び「白葱だもんね!」という主張の激しさが苦手でした。

鳥取県、というかおおむね西日本では「葱」というと
東京で言うところのわけぎを少し太くしたものって感じです。

葱は青い(というか緑の)ところをちょびっと食べるもので適度な香りがあればよく、
白いとこばかりの太い葱は主張も激しい代わりに可食部も多く、
だからことさらに「白葱」と呼ばれるのかもなんちて思ってました。

東京に来てわたくしは、うどんの汁がまっくろなのに加えて、
上に乗っかってる葱がどう見ても小口切りの葉葱ではなく
白葱みたいな太くて硬い葱のみじん切りだったことに驚愕しました。

ええええええ! なんで白葱が乗ってんの?→田舎者の脳内

さらに。スーパーにも青いひょろっとした葱はなく、
白くて太い葱(自分的には白葱)しか売っていないのです。ヒイイイイイー(゚∀゚)
葱臭くて主張が激しい東京の葱、絶対食べん!!
そう心に決めたわたくしはその後10年葱を買いませんでした。

しかしあるときからわたくしは葱を食べられるようになりました。
それは葱の産地担当になり、その葱がおいしかったからであります。

さて、スーパーに売ってる葱はいわゆる「一本葱」と呼ばれるものです。
葱にはこのほかに「分けつ葱」というのもあります。

前者は現在スーパーに売ってる葱、後者は深谷葱って感じです。
葱には在来種がたくさんあり、下仁田葱や松本一本葱なども
分けつせずに一本で生えますがスーパーの一本葱とは違うものです。

スーパーのいわゆる「一本葱」は外側の泥の付いている部分が一枚むいてあります。
これは出荷前にむくのですが、人が手作業でちまちまむくわけではなく、
外側に切れ目を入れ、エアーを吹き込んで一枚ぶっ飛ばす的な機械を使います。

「皮をむく」ためには、そもそもの葱がむきやすいことが前提になります。
ということで「一本葱」は皮がむきやすいという方向に品種改良されました。

皮がむきやすい=葱の皮が厚い=硬い ですから、
触感とか味はちょっと後回しになったのかもしれません。

わたくしが産地担当をしていたころ消費者が泥付き葱を嫌うから
むき葱を出荷してもらえないか」と産地に打診したことがありました。
葱自体がやわらかくヘロヘロしている深谷葱はむき葱には向きません。
深谷葱は青いところも食べられるため、むき葱で葉切りにするのにも向きません。

しかし農家の反発は手間の問題ではありませんでした。

せっかくおいしい深谷葱をつくってるのに一本葱を作れというのか。
あんなにおいしくない葱をつくってどうする。大地はおいしい野菜を扱うんじゃないのか」

ヒイイーごめんなさーい!!

むき葱の話はその後一度立ち消えになりましたが今はどうかな。

当時、本庄・岡部の産地担当であったわたくしは、自分の担当産地の葱、
つまり深谷葱しか食べておらず、一本葱の味をあまりよく知りませんでした。
産地訪問の帰りにどっさりお土産にもらった彼らの葱はいつもとてもおいしくて
東京の葱を食べられるようになったのはこの方たちのおかげでもあります。

彼らがつくっていたのは、深谷葱のなかでも作りづらいけどおいしい「農研2号」と、もとは農研だったものを長年自家採種しているほんとにやわらかーいおいしい葱でした。
今考えるとわたくしはことさらにおいしい葱を食べていたのですが
当時は自分の幸運さにまったく気づいていませんでした。ううううう。

そして退職後、一本葱を食べてわたくしは彼らの言葉の意味を思い知ったのでした。

スーパーの一本葱は、消費者の「泥付き葱は台所が汚れるからイヤ」という欲と、
「泥付き葱は売れないからむき葱をつくってほしい」という小売の欲と
「むき葱が売れるなら手間の掛からないむきやすい葱をつくろう」という
市場とJAの欲が組み合わさって生まれたものです。

消費者の「欲」「わがまま」が作物の性質を変えてしまういい例とも言えます。

すでにスーパーにはむき葱しか並んでいません。
わたくしはそれを見るたび、わたくしたち消費者には
ほんとうにおいしい葱を食べる機会すら与えられていないのだなー
一生一本葱しか知らずにいる人もいるに違いない。なんちて思います。

「泥付きがイヤ」って言ってたらおいしい品種を食べる機会がなくなった。
悲しいことですが、もしかしたら自業自得かもしれません。

こんな小さなことが多様性が失われるきっかけになるのだとしたら。

であれば、わたくしたち消費者は日々のお買いもので何を選択するか
しっかり考えていく必要があるでしょう。

なくなったものを復活させるにはすごーくエネルギーがいるのです。
食べられる、買ってもいいと思える葱がなくなること以上に、それは大変なことなのです。


出典)まぼろしのもやしを求めて

『農研2号』と野菜の品種

深谷のもやし屋、私は深谷市の明戸地区の北よりである新井という場所に生まれてから47年間ずっと同じ地にいます。

すこし出歩けば近所は畑だらけ、さらに北へ向かえば利根川流域のネギ一大産地が広がる、そんな場所です。“本場深谷 ネギ産地近く”ということもあり、ネギはとても好きな野菜です。父が健在の頃は工場敷地にある畑でネギを作ってましたし、さらに近所のネギ農家からのおす そ分けもあって、この時期はあたり前のように毎日ネギを食べています。味噌汁、煮ぼうとうに入れる、ネギぬた、油炒めにする、チャーシューと白髪ネギをご ま油で和えてラーメンに載せる・・・・そんな感じです。

ネギが大好きなだけに夏にネギはほとんど食べません(笑)。自分の中のネギの地位を落としたくないからです。

ネギ好きな私ですが、ひとつ昔から気になっていることがありました。

今のネギは本当の深谷ネギではない。昔の深谷ネギはもっと柔らかくて甘かった。ただ痛みやすいので輸送に向かずしっかりと硬い品種に取って代わられた

という話。

かつては青果商であった父を含め、これまでどのくらいの農業関係者から聞いてきたことでしょうか。農家ではない私ですら聞いている話です。年配の生産者さんにとっては“口に出さないだけで”常識の話なのかもしれません。

昔の深谷ネギ=柔らかくて美味しい本来の深谷ネギ

私は機会があったらその深谷ネギを食べてみたい、と願っていました。

そして情報は意外なところから入ってきました。私に県産在来大豆を勧めた埼玉県農林総合研究センター(農総研)の増山さんが、私のそんな話を聞いて答えてくれたのです。今年の8月ごろでした。その昔のネギというのは

『農研2号』

という品種であり、深谷のどこかでまだその種があるらしい、ということでした。

以来、私の中では『農研2号』という品種名は

『失われた幻の深谷ネギ』

といった位置づけで強く心に焼き付けられたのです。そして・・・農研2号は

『野菜の品種』

というものを考えさせるきっかけもつくってくれました。自分たちは野菜を語るときに簡単に

『ネギ』だ

『キャベツ』だ

『にんじん』だ

・・・・と言ってしまいますが今までに品種の違いというものをほとんど意識していませんでした。

もやしにも主流である緑豆から作るものと、別品種の豆、ブラックマッペから作るもやしとでは味が大きくことなります。さらに現在は品種かけ合わせをしてい ない在来種(固定種)の大豆からもやしをつくっています。その在来種の大豆、すべてがそれぞれ違う味、食感をもっています。あたり前のことです。

『品種によって味も違ってくる』

のは当然のことなのです。

私はそんな仕事をしているくせに地元野菜の、とくに好物であるネギの品種による味の違いなどまったく考えていなかったとは恥ずかしい限りです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

19日の午前のことです。深谷のとなり、熊谷市の郊外で開催された深谷の農家さんが軽トラで集まって市を開くいわゆる『軽トラ市』を訪れたとき、

偶然にも幻の農研2号のねぎ

を見つけました。深谷は岡部地区の若い生産者さんが栽培していたのです。

『農研ねぎ』、1束太さはまちまちで6~7本入って200円は決して高くはありません。いやむしろ安いくらい。私は興奮と共に3束購入しました。二つは自宅用、もう一つは『農研2号』に興味を抱いていた朝日新聞の記者に送りました。
まぼろしの「もやし」求めて・・・

そしてその日の昼食に農研2号で育てられた農研ねぎを食べる機会ができました。場所は地元のイタリア料理 店です。出てきた料理はネギと鶏肉のパスタ。白い部分は薄く輪切りにし水でさらし絞ったものをパスタに乗せて、青い部分は細切りにしてパスタと和えてあります。
まぼろしの「もやし」求めて・・・

まず生である白い部分をそのまま食べてみます。

「甘い」

・・・これが第一印象でした。単なる甘みではなく、深みのある花の蜜のような甘みが感じられました。逆に覚悟をしていた鼻に抜けるようなツンとした刺激はありません。歯ごたえもなにか普段のネギの半分ほどの抵抗。ややしっとりとしています。

パスタに絡んだ青ネギの部分も下仁田ネギのようなねっとりとした食感があります。隠し味に砂糖を加えたような甘み もあります。食べ終わり皿にたまったソースもとろみがかっていました。このとろみはおそらく青いところのなかにある粘液。そういえば昔のネギは青い部分を 折るとどろっと粘液が出て手がネギ臭くなったものです。最近あまり感じられなかったネギが及ぼすものがここにあります。

続いてネギそのものを味わうに一番効果的な調理法で農研ネギを食べる機会を得ました。泥つきのまま切らずに焼いてしまう

『泥ネギ一本焼き』

です。焦げた外皮を剥くと中はふっくらと熱が通って、そのままかぶりつきます。

まぼろしの「もやし」求めて・・・  

この料理で通常の深谷産ネギと比べるとその差は歴然。外側の柔らかさと全体の甘み、青い部分からはジェル状になった粘液が飛び出します。

ネギに限らず根菜類の野菜は土の違いが作物の味に大きく影響する、と私は思ってましたがそれだけではなさそうで す。やはり『品種』というのも大きな要因になるはずです。というのはこのネギの産地は深谷市の岡部地区。利根川流域から離れた岡部はいわゆるネギの名産地 ではありません。(逆にトウモロコシ、ブロッコリーは有名です)それでもこれだけ味のよいネギができるということは生産者さんの努力と品種が大きいのだと 思うのです。

この農研2号から作られた農研ネギ、育成中はその柔らかさゆえに風のある日はすぐ倒れてしまうのだそうです。生産者さんはそのつど土寄せをしてネギをまっすぐ固定するのですが、そのときも一度手で根元を固めてから、という手間がひとつ増えるのだそうです。

なぜこの味のよい品種が“まぼろし”に為らざるを得なかったか。味は多少落ちても生産者さんが他の品種を選んだか、というその理由はこのあたりにもありそうです。

野菜の品種・・・野菜好きな方でしたら産地よりも品種による野菜の味の違いを意識してみる、その価値はありそうです。