【農業日記】科学的な有機農業を実践するひと 西出隆一氏


紹介されている西出氏の農法は、曖昧なところのない誰でも実現可能な農法。土壌分析の数値をベースにして施肥設計を行うのでも、物理性・生物性・化学性の整った健康な土づくりを目指す。(※物理性や化学性については、http://www.hontabe.com/を参照)特に重要な物理性を確認し土壌三相分布を整える。土壌由来の病害が出なくなるよう、微生物資材とそのエサになるものを土に入れてやる・・・。
私は10年以上、基本不耕起で種を蒔いて雑草を刈るだけという栽培をしてきました。耕さないことで、土の中の生物相が豊かになり土が肥えてくるはず・・・。でも土が良くなったという実感がありません。なにか重要なことが抜けているのだと思います。

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引用元)ほんものの食べもの日記partⅡ2011/1/17

科学的な有機農業を実践するひと 穴水町 西出隆一さん

「健康な作物は土づくりから」 いろいろなところで何度もよく聞く言葉です。 でも「土づくり」って何のこと? そんな疑問を持ったことはありませんか? その質問に科学的に答えてくださるのが私の師匠でもある、 石川県穴水町で農業を営む、西出隆一さんです。

全国各地の農民の畑に行き辛口アドバイスをする西出さん。 2006年夏の北海道視察時のようす。超辛口でしたが、勉強になりました。 「健康な土とは、物理性・生物性・化学性の整った土のこと」 「農業は脳業。やる気と元気と根気が必要」 「農民ならば、自分の畑で作物を観察すること。一日5分作物を見る時間をつくること。 今の農民は自分の作物を見なさすぎる」 従来の「我慢と根性の有機農業」を、「食味が高く収量も増える優位性のある農業」として 考えている西出さん。発想や考え方は従来の有機農業家とは一線を画するものです。

※土の物理性や化学性については、このスペースでは書ききれないため、 下記のWEBサイトをご参照いただけるとと思います。 http://www.hontabe.com/

西出さんが今の土地で農業を始めたのは、45歳の時。 あまりの土の悪さに入植者が全員出ていってしまったほど、 雨が降ればすぐにぬかるむ粘土質の固い土地でした。 今でも雨が降るとべったりとしたぬかるみに足を取られる、そんな土。 しかし西出さんのハウスの中はふかふかで、トマトの支柱が1.2mもすうっと土のなかに入るほど。 ハウスの外と中の土が、もともと同じものだったとはとても思えません。 土は土づくりで変わるのだ。西出さんの畑に行くと、その言葉が実感できます。

西出さんの畑見学時に試しに通路に支柱を入れてみたら…。 スカッと入りましたです。なぜ1.2mかというとトマトの支柱の高さが1.2mだから。 「土は微生物で耕してやる。微生物は一年に5センチ、土を耕してくれるから。 微生物が生きていける環境を整えれば、土壌病害も出なくなる。 わしの畑では微生物叢が豊かだから、土壌由来の病気は出ない。 だからトマトでもなんでも、無農薬でできとるよ。 無農薬栽培で虫が出た、病気が出たと言う人がいるが、 土づくりがちゃんとできていれば、虫や病気にやられることはない。 そういう人は土づくりができてない。科学的な農業をしてないからよ」 科学的な農業とは、再現可能な農業のこと。 西出さんの農法はあいまいなところのない、誰でも実現可能な農法であることが特徴です。 たとえば、土壌分析の数値をベースにして施肥設計を行うこと。 物理性を確認し、土壌三相分布を整えること。 土壌由来の病害が出なくなるよう、微生物資材とそのエサになるものを土に入れてやること。

「試しに三相を見てみよか?」 フライパンと簡易コンロがあればすぐに測れる土壌三相。 やろうと思えば簡単なんですよね。でも測ってる農民を私は見たことがありません。 これらはどれも理にかなっているけど、今まで誰もしてこなかったこと。 それが可能なのは、東京大学の農学部出身であることが関係あるかもしれません。 研究者や公務員などの道を選ばず、農業者としての道を選択した西出さんは、 農業を始めるにあたり、農業関係の研究について資料を取り寄せ、もれなく調べたと言います。 「いろんな文献を読み漁ったけど、新しい発見はそんなになかった。 昔から同じようなことを皆が研究しとる。 だから自分で実践することにした。思いついたことはなんでもやってみた。 その中で“これはいい”と残ったのが、今の技術。 もっと新しい発見があるかもしれないから、毎年何か試してみる。 その結果を確かめて、使えるものは残す。だから、毎年農業一年生やね」 一般では30回以上の農薬を散布する無農薬栽培が非常に難しいトマトで、 無農薬栽培を実現し、さらに糖度も常に7度以上という食味の良さをキープできるのは、 この努力とチャレンジ精神のたまものでしょう。

西出さんのトマトじゃないんですが… グリーンベースがくっきり出た見るからに糖度の高いトマト。 だいたい5段目までは普通にこういうトマトがなります。 勝負は10段目以上。西出さんは6月から11月まで収穫する作型で25段採るというので驚き。 25段目でも7度近くをキープというので、さらに驚愕。 「おいしくて安全なトマト」が西出さんの畑では次々と生まれています。 「ハウスでトマトをつくるなら、最低でも坪2万の収益を上げること」 獲得した知識と技術を惜しげもなく弟子たちに教え、 高品質で多収が可能な農業を広めている西出さんが彼らに提示する目標です。 トマト農家が聞けば「絶対無理。そんなの夢」という数字ですが、 「坪3万取れました!」という報告が弟子から上がることもあるそうです。 「今の有機農業は対処療法で虫や病気をなんとかしようとしとる。 そういう考え方は農薬をまくのと同じやね。 土づくりをきちんとしてないからそういうもんが出る。 原因をつぶしてやれば、出なくなることがわかっとらん。 有機でやるのにはきちんと理由があるのに、それもわかっとらん人が多い。 堆肥を入れれば有機だと思っとる。 食味の向上も、虫が出なくなるのも、有機だから可能なんだってことがわかっとらんね」

正しく生育しているきゅうりの葉は、写真のように等間隔で同じ大きさ。 そしてお日様をじゅうぶんに浴びられるよう上を向いています。まるでハスの葉みたいに美しいですね。 初期にチッソが効き過ぎると下葉の方が上よりも大きくなり、葉はだらりと下がります。 作物の生育状態から肥料の効き具合が見ることも大切。それは日々の観察力のおかげです。

西出さんの畑のものではありませんが、チッソが多い場合のトマトの花。 花弁が多く変形しているので「鬼花」と言われ、変形果の原因。 施肥設計を間違えたか、水分管理が雑なのか…とにかくうまく管理されていない状態。

トマト農家がこの色合いを見ると「緑が薄すぎるんじゃないの?」と言います。 緑が薄くても葉っぱが等間隔に互い違いに出て、上を向いているのが適正な状態。 肥料の効きすぎは病気や虫の原因。常に適正値を…それが科学的な農業なのです。 その辛口のアドバイスにも関わらず、師事した人たちからは 「収量が上がった!」「食味が上がって評価が高くなった」と喜びの声が寄せられています。 再現性のある科学的な農業だからこそ、誰でも努力をすればできるのです。 安全でおいしい野菜が一般よりもたくさん収穫できるようになったら。 現在のように特別な人だけが食べられるものではなくなります。 西出さんの農業は、そんな可能性を秘めています。 これはきっと、有機農業の革命私はそんな風に思っています。